中国のインフレ懸念

短期的には、中東情勢の混乱、わが国の震災による先行き不透明感から、ドル円相場にはダウンサイド・リスクが残る。ただし、円売り介入に対する警戒感も強く、欧州では利上げ観測と財政懸念が交錯するため、主要3通貨に明確なトレントを求めるべきではない。あえて言えば、中国の引き締め政策を受けた中国元買いが望ましい。しかし、わが国経済が震災被害からの復興期に入り、中国経済の減速が明確になり、加えて、米国の量的緩和の解除が現実味を帯びてくれば、円の独歩安トレントが明確となる可能性が高い。ドル円相場は、2011年年末に向けて90円台へ向かっていくとみている。

中国のインフレ懸念

中国のインフレと貿易赤字に対応した引き締め政策は、円安を招来する可能性がある。

 

資源価格と食料価格の高騰が中国経済を直撃している。中国税関総署が、3月10日に発表した2月の貿易収支は73億ドルの入超と、2010年3月以来、11ヵ月ぶりに赤字となった。原油等の国際商品価格の高騰によって輸入額が膨らんだことがその主因である。

 

一方、中国国家統計局が翌11日に発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年比4.9 %の上昇となり、1月の同4.9 %に引き続き、政府の年間の抑制目標である「4%」を大幅に上回っている。全体の3割程度を占める食品が同11.0%上昇した一方、中東情勢の混乱から原油価格が高騰し、一部の工業製品において値上げの動きが本格化している。新興国経済の資源効率は一般的に低く、当該経済の高成長は必然的に資源価格の高騰をもたらすが、中国もその例外ではない。加えて、世界的な過剰流動性と中東の政情不安が中国のインフレに拍車をかけているといえる。

中国当局は引き締め政策を続行

インフレと貿易赤字に対して中国当局は、金融引き締めによって経済を減速させることが不可避となる。中国人民銀行は2月8日、金融機関の貸し出しと預金の基準金利を9日から、0.25%引き上げると発表した。利上げは2010年12月26日以来で、本格的な金融引き締めに転じた2010年10月以降では3回目となる。

 

今回の利上げによって、期間1年間の基準金利は貸し出しが6.06 %、預金が3.00%となる。また、人民銀行は3月18日、預金準備率を25日から0.5%引き上げると発表している。前回の準備率引き上げは2月24日であり、インフレ抑制に動き出した昨年以降で10回目となる。

 

人民銀行は、準備率の具体的な水準を明らかにしていないが一部の大手行で20%に達し、過去最高を更新した模様だ。人民元の上昇も続いている。同月25日の上海外為市場ではドル人民元相場が、6.549元まで下落し、2005年7月の元切り上げ以降の最高値を更新した。元相場の上昇には、金融引き締めと同様に景気の減速効果がある。中国当局は、金融・為替の両面から引き締め政策を続行している。

中国経済の減速は円にネガティブ

中国経済の減速は、日米欧の先進諸国経済に「貿易」と「直接投資」2つのルートを通じてネガティブな影響を与えることになる。貿易に関しては、日米欧の対中輸出が減少することのみならず、韓国や台湾といった他のアジア諸国を通じた中国に対する間接輸出も減少することになる。

 

さらに 日米欧の多国籍企業が、中国子会社から受け取る直接投資収益も減少すると予想される、直接投資収益の減少は、株高を支えてきた高収益の基盤が崩れることを意味し、株高による資産効果を通じた消費等の景気浮揚効果も失われることになる。

 

中国経済の減速は、経常収支の悪化の悪化や景気減速を通じて、ドル、ユーロ、円にネガティブな影響をもたらすが、本誌前号で筆者が述べた通り、その影響は、中国やアジア諸国との経済的な結びつきがより強いわが国の円に大きく現れると考えられる。